ローライコードを手に、まだ夜の気配が残る真鶴のお林に立っていた。
この林の始まりは、約300年前。江戸の大火による木材需要に応えるため、当時ススキの原野だったこの地に杉が植えられたという。やがて林は海に栄養と木陰をもたらし、真鶴の海を豊かな漁場とした。それ以来、魚つき保安林として大切に守られてきた。
ここを初めて訪れたのは小学生の頃。磯遊びをせがんだ私を、母はホンダ・アコードに乗せて連れてきてくれた。当時はまだカーナビもない時代。母がどうやってここまでたどり着いたのか、今となっては不思議でならない。
母は、若い頃、兄たちに混じってローライコードを使い、暗室作業までこなしていたという。
真鶴のお林を、母と同じカメラで撮り、自ら現像し、焼き付ける。
母の形見のセコニック露出計が、時を超えて、母と私を静かに結ぶ。




